大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 平成元年(行ウ)1号 判決 1990年4月09日

主文

一  第一事件原告の請求を棄却する。ただし、第一事件被告が第一事件原告に対して昭和五三年三月一一日付けでした別紙(一)第一目録(1)・(2)の各土地についての仮換地指定処分は違法である。

二  第二事件原告の請求をいずれも棄却する。ただし、第二事件被告が第二事件原告に対して昭和五三年三月一一日付けでした別紙(一)第一目録(1)・(2)の各土地についての仮の権利の目的となるべき宅地指定処分、平成元年一月一七日付けでした別紙(二)第二目録(2)・(3)の建築物についての移転通知及び照会処分、同目録(1)の建築物についての移転通知処分は、いずれも違法である。

三  第三事件原告の請求をいずれも棄却する。ただし、第三事件被告が第三事件原告に対して平成元年一月一七日付けでした別紙(二)第二目録(1)の建築物についての移転通知及び照会処分は違法である。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を第一事件・第三事件原告及び第二事件原告の負担とし、その余は第一事件・第二事件・第三事件被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 被告が原告に対して昭和五三年三月一一日付けでした別紙(一)第一目録(1)・(2)の各土地についての仮換地指定処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 被告が原告に対して昭和五三年三月一一日付けでした別紙(一)第一目録(1)・(2)の各土地についての仮に権利の目的となるべき宅地指定処分を取り消す。

2(一) (主位的)

被告が原告に対して平成元年一月一七日付けでした別紙(二)第二目録(2)・(3)の建築物についての移転通知及び照会処分並びに同目録(1)の建築物についての移転通知処分が無効であることを確認する。

(二) (予備的)

右(一)記載の各処分を取り消す。

3 被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年八月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 3につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 本案前の答弁

(一) 請求の趣旨2の別紙(二)第二目録(2)・(3)の建築物についての移転通知及び照会処分のうち、照会部分の無効確認請求及び取消請求をいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

(第三事件について)

一  請求の趣旨

1(一) (主位的)

被告が原告に対して平成元年一月一七日付けでした別紙(二)第二目録(1)の建築物についての移転通知及び照会処分が無効であることを確認する。

(二) (予備的)

右(一)記載の処分を取り消す。

2 被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年八月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 2につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 本案前の答弁

(一) 請求の趣旨1の移転通知及び照会処分のうち、照会部分の無効確認請求及び取消請求をいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

(第一事件について)

一  請求原因

1(一) 被告は、土地区画整理法(以下「法」という。)三条三項に基づき、香川県中央都市計画事業西大浜土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)を施行している者である。

(二) 原告(以下「原告茂」という。)は、被告の本件事業の施行地区(以下「本件施行地区」という。)内において、地続きの別紙(一)第一目録(1)・(2)の各土地(以下「本件従前地」と総称し、各土地を「従前地(1)」、「従前地(2)」という。)を所有し、別紙(三)建物所在図(なお、別紙(七)「建築物等移転通知及び照会」添付の建物配置図参照)のとおり、本件従前地のうち、南西部分に別紙(二)第二目録(1)の居宅店舗(以下「従前建物(1)」という。)を建築所有し、その余の部分並びに従前建物(1)のうち右図面表示の事務所及び応接間の部分を有限会社宮本製材所(第二事件原告、以下「原告会社」という。)に昭和四一年賃貸した。原告会社は、右図面のとおり、賃借土地部分に別紙(二)第二目録(2)・(3)の各工場(以下「従前建物(2)・(3)」という。)を建築所有している。

なお、原告会社は、原告茂とその兄宮本一男(死亡後は、その子の宮本秀男)とが経営する製材業を目的とする同族会社である。

2 被告は、原告茂に対し、昭和五三年三月一一日付けで、本件従前地について別紙(四)「仮換地指定通知書」のとおりの仮換地指定処分(以下「本件仮換地指定処分」という。)をした。なお、本件仮換地指定処分は、換地予定地的仮換地指定処分である。本件施行地区の換地計画案が既に作成されており、それに基づいて仮換地の指定がなされたものである。

3 しかしながら、本件仮換地指定処分は、次の各事由により違法である。

(一) 縦の照応原則違反

本件仮換地指定処分は、次に述べるとおり、本件仮換地が本件従前地と照応しておらず、法九八条、八九条に違反する。

(1) 本件施行地区約七〇万平方メートルは、塩田が約八割を占める地区で、昭和四八年三月の本件事業計画の決定当時、全域が準工業地域に指定されていた。ところで、右決定に先立って、香川県知事により、本件施行地区のほぼ中央を東西に通じる幅員五〇メートルの幹線道路(以下「五〇メートル道路」という。)が都市計画として定められ、右道路の南側は、そのうち住居地域に指定(変更)されることが予定されていた。本件事業は、塩田の廃止に伴い、無秩序な市街化が予想されたので、それを防止し、右道路その他の公共施設の整備改善を図り、健全な市街地の開発を行うことを目的として計画されたが、右の用途地域変更の予定に添って五〇メートル道路の北側地区を工業地とし、本件従前地が含まれる南側地区は住宅地とすることにしていたところ、昭和四八年一二月一一日、香川県知事により、前記予定どおり右道路の南側地区を住居地域とする用途地域の指定(変更)がなされた。このような場合、仮換地の指定に当たってなされるべき従前地との照応の考慮は、土地区画整理事業開始時(すなわち、事業計画決定時)における状況を基準とすべきである。すなわち、その基準時に準工業地域にあった本件従前地のような工場用地の仮換地は、北側地区の準工業地域に行われるべきである。ところが、本件仮換地指定処分が南側地区の住居地域に行われたため、原告会社が行ってきた製材業は、次のとおり仮換地では継続することができなくなる。

(ア) 本件仮換地指定処分により、本件従前地上にある従前建物(1)ないし(3)の移転は避けられない。その移転につき、建築基準法の適用を免れないところ、住居地域では、同法四八条三項により、同法添付の別表第二(は)、第三(五)の「木材の引割若しくはかんな削り、裁縫機械、撚糸、組ひも、編物、製袋又はやすりの目立」で出力の合計が〇・七キロワットを超える原動機を使用するもの(従前建物(2)・(3)は、これに当たる。)は、不適格建築物として原則として建築が許されない。

(イ) もっとも、建築基準法四八条三項のただし書許可が得られ、たとえ移転は可能となっても、本件仮換地は、本件従前地と比較して、奥行も間口も減じられた土地であるため、従前の機能を維持する工場配置は不可能であり、従前の作業効率が著しく低下することになる。また、移転後の増改築につき、建築基準法による制約を受ける。それに本件仮換地指定処分等により、原告会社が住居地域で製材業を営まざるを得ないことになると、その騒音・振動に対する付近住民の苦情が増大し、原告会社は、いずれ本件仮換地での操業廃止に追いこまれることは必至である。

(現に、被告は、原告会社及び原告茂との間で、昭和四八年三月一〇日、本件従前地については準工業地域に仮換地することを書面で約していた。本件仮換地指定処分は、この約束に反する。)

(2) 従前地は、角地(二路線の交差する位置にあって、それらのいずれにも接面する画地)であった。しかるに、本件仮換地は、一路線に接面するだけである。

(二) 横の照応原則違反

法九八条、八九条の照応の原則は、従前地と仮換地との縦の関係での照応のみならず、横の関係、すなわち、権利者相互間でも公平であることを要求していると解される。しかるに、本件仮換地指定処分は、次に述べるとおり、土地の不正評価のため、本件施行地区の約八割を所有する塩田業者と比較し、またその他の一般地権者と比較しても、著しく不公平であるから、横の照応原則に違反する。

(1) 塩田業者との関係

(ア) 廃止塩田の施行前の路線価の「Z」の一律加算による不当なかさ上げ

被告は、施行前路線価及び位置価の計算において、準工業地域の四二本の街路及び住居地域の四一本の街路の全部につき、接近係数(宅地が交通、文化、厚生及び慰楽又は嫌悪施設等の諸施設との相対的関係による受益又は受損価値を表わす係数)に一律にZ(対象施設が地域的に及ぼす係数)〇・六を加え、もって廃止塩田をことさら高く評価している。

(イ) 奥行逓減率、奥行長大地修正係数、盲地(島地)修正係数の不適用及び位置価の設定

被告は、施行前の土地評価において、奥行逓減率、奥行長大地修正係数、盲地(島地)修正係数を適用すべきであるのに、これらを適用せず、位置価なるものを設定し、もって間口八間、奥行一〇〇間が一般である塩田をことさら有利に評価している。

(2) 他の一般地権者との関係

原告は、次に述べるとおりの被告の土地評価の不正により、一般地権者との関係でも多大な不利益を受けている。

(ア) 本件従前地前の路線に最高路線価を設定しなかった不正

固定資産税課税標準価格、被告の依頼によりなされた株式会社四国第一鑑定所の鑑定評価額からみて、施行前の最高路線価は、本件従前地前の路線(RNO三-一、以下「三-一路線」という。)に設定されるべきであった。しかるに、被告は、坂出魚市場株式会社前の路線(RNO二-一、以下「二-一路線」という。)に最高路線価を設定した。

(イ) 道路構造令違反道路の造成による不正評価

被告は、五〇メートル道路を、道路構造令一二条に違反して、北から南に路上施設(植樹)、歩道、車道の順で設置し、土地評価基準中街路係数「X」に街路接面不良マイナス〇・三〇を定め、これを右道路北側宅地に適用し、もって右宅地の施行後の評価額を不正に低く定めている。

(ウ) 施行後の街路番号二、二、三-二の路線価の不正評価

被告は、本件従前地に接面する施行後の街路番号二、二、三-二路線の路線価の計算において、街路係数の「t」の値を根拠なく二・〇と高く評価している。

(エ) 日照不良による修正係数の不正付加

被告は、両景橋の高架化に伴う橋の北側の宅地の施行後の評価につき、日照不良による修正係数〇・九を乗ずることにした。しかし、右の日照被害は、高架化を必要とさせた道路設置者の香川県が負担すべきである。したがって、右の修正係数の適用は違法である。

4 被告の本件事業計画には、次に述べるとおりの違法事由がある。

(一) 法一三一条違反

被告は、本件事業において、公有水面埋立法二条一項、港湾法五八条二項に基づき、坂出港湾管理者の長たる坂出市長から埋立免許を得て別紙(五)施行地区区域図の青線部分の水路(以下「<1>公有水面」という。)を埋め立てた。また、被告は、同図面の赤線部分の水路(以下「<2>公有水面」という。)も埋め立てた。<1>公有水面は、法一三一条により宅地とみなされるものであり、<2>公有水面も、本来これと同様に取り扱われるべきものである。したがって、被告は、右各埋立地を宅地として地権者に還元する計画を定めるべきであった。しかるに、被告は、右各埋立地をすべて公共施設用地に取り込む事業計画を定めた。

(二) 五〇メートル道路造成の違法

被告が本件事業計画において造成する計画を定めた五〇メートル道路は、本州四国連絡橋の架設に伴う交通需要に対処するために計画されたものである。したがって、右道路の造成は、健全な市街地の造成を図るという法一条所定の目的を欠き、本件事業計画は違法である。

(三) 法一一九条の二違反

本件事業は、土地区画整理法施行令六四条の二所定の幹線道路や緑地等の公共施設の用に供する土地の造成を主たる目的とするものであるから、被告は、公共施設管理者たる香川県等に法一一九条の二所定の費用の負担をすることを求めるべきである。しかるに、そのような資金計画が本件事業計画に定められていないから、本件事業計画は違法である。

(四) 保留地処分金の不正取り過ぎ

被告は、本件事業計画の資金計画の収入の部において、保留地七万二七三三平方メートルの一平方メートル当り価格を三万四四〇〇円として計算して、保留地処分金の金額を二五億〇二〇〇万円としている。しかし、保留地の一平方メートル当り価格は四万五二〇〇円を下らないから、前記資金計画は違法である。

(五) 埋立費用の過大計上

被告は、本件事業計画の資金計画において、埋立費を九億七〇〇〇万円としているが、埋立費は二億一一二八万四〇〇〇円を超えない。したがって、埋立費用が七億五八七一万六〇〇〇円過大に計上されているから、本件事業計画は違法である。

(六) 上水道工事費の計上の違法

被告は、本件事業計画の資金計画の支出の部に上水道事業費を計上している。しかし、右費用は、水道法六条、一四条四項四号に照らし、水道事業経営主体たる坂出市が負担すべきであるから、本件事業計画は違法である。

(七) 県費補助金の計上漏れ

本件事業に対しては、香川県から補助金が交付される。しかるに、被告が本件事業計画の資金計画の収入の部に県補助金を計上していないのは、違法である。

5 <1>公有水面及び<2>公有水面の埋立には、次のとおりの瑕疵がある。

(一) <1>公有水面の埋立免許は、次のとおり重大かつ明白な瑕疵があるので無効である。

(1) <1>公有水面の埋立免許は、埋立免許出願者の被告と免許権者の坂出市長とが共謀の上、埋立免許願書の「埋立地の用途欄」に「道路用地、公園用地、緑地用地及び住宅用地とする。」と虚偽の記載をしてなした出願に対してなされたものであるから、無効である。

(2) <1>公有水面の埋立免許には、公有水面埋立法四条三項一号により右公有水面に権利を有する者の同意を要する。原告茂は、永年の慣習により、右公有水面に排水をする権利を有している。しかるに、右公有水面の埋立につき、原告茂の同意はないから、無効である。

(二) <2>公有水面の埋立は、無免許でなされた。

6 よって、原告は、本件仮換地指定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1について

(一) その(一)は認める。

(二) 同(二)は、原告茂の原告会社に対する従前建物(2)・(3)の敷地等の賃貸時期及び原告会社の同族会社性の点を除いて、認める。右賃貸時期が昭和四一年であること及び原告会社が同族会社であることは、不知。

2 請求原因2の事実は認める。

3(一) 請求原因3(一)について

(1)(ア) その(1)の冒頭部分のうち、本件施行地区は塩田が約八割を占める地区で、本件事業計画の決定当時準工業地域であったこと、右決定前、原告茂の主張するとおりの都市計画決定、用途地域指定予定があったこと、本件事業が原告茂の主張するような目的で計画されたこと、その計画で香川県の用途地域変更の予定に添って五〇メートル道路の北側地区を工業地とし、南側地区は住宅地とすることにしていたところ、原告茂主張のとおり用途地域の指定(変更)がなされたこと、本件仮換地指定処分が住居地域の南側地区になされたことは、認めるが、その余は否認し、主張は争う。

事業計画決定後、施行地区の一部につき、用途地域の指定(変更)がなされた場合、仮換地の指定に当たってなされるべき従前地との照応の考慮は、仮換地指定時における状況を基準とすれば足りるから、本件仮換地を住居地域に指定しても、縦の照応の原則に違反するものではない。

(イ) その(1)の(ア)のうち、本件仮換地指定処分により、本件従前地上の建築物の移転が必要であること、住居地域では、原告茂主張のような建築制限があることは、認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(ウ) その(1)の(イ)のうち、本件仮換地が本件従前地と比較して奥行も間口も減じられた土地であることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(2) 同(2)のうち、本件仮換地が一路線に接面するだけであることは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) なお、本件仮換地指定処分は、被告の建設経済部長引田伝と原告茂との間で十分協議を経た上でなされたものであり、本件仮換地が住居地域であるほぼ現位置になされることは、原告茂において承諾していた。しかるに、原告茂が本件仮換地指定処分を縦の照応原則に反すると主張するのは、許されない。

右事実に対する原告茂の認否 否認する。

(二) 請求原因3(二)について

(1) その冒頭部分のうち、法九八条、八九条の照応の原則が、従前地と仮換地との縦の関係での照応のみならず、横の関係、すなわち、権利者相互間でも公平であることを要求していると解されること、塩田業者が本件施行地区の約八割を所有していることは、認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

なお、右の横の照応の原則は、縦の照応の場合に比べ、それほど厳格なものではないと解される。すなわち、仮換地・換地処分の性質上、地権者相互間に不均衡が生じることは避けられず、法も、ある程度の不均衡が生ずることはやむを得ないものとして許容し、その不均衡を金銭をもって清算すべきものとしているからである(一〇二条一項、九四条)。したがって、仮換地指定処分が横の照応の原則に反して違法というためには、施行者がことさらに特定の者の不利益を図ったとか、当該処分が特定の者にとってのみ著しく不利益なものであるとかいった場合でなければならない。

(2) 同(1)のうち、<1>被告が施行前路線価及び位置価の計算において、原告茂主張のように接近係数にZ〇・六を加えたこと、<2>被告が施行前の土地評価において、奥行逓減率、奥行長大地修正係数、盲地(島地)修正係数を適用せず、位置価を設定したこと、<3>塩田が間口八間、奥行一〇〇間が一般であることは、認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

なお、<1>は、国鉄坂出駅やバス停留所といった施設が地域の居住者にとって希少価値を有し、距離限度を超えても利用頻度は多く、日常生活において大いに価値のある施設であることから、それらが本件施行地区に及ぼす影響を評価したものであり、宅地評価の平準化にも資する。<2>は、本件施行地区の約八割が塩田(おおむね間口八間、奥行一〇〇間の大規模画地)であるところ、塩田と他の宅地との均衡及び塩田相互間の均衡を図るために行ったものである。一般に土地は集合することにより地価増につながることからいっても、塩田の集合を地価増と捕えて、位置価を設定したのは合理的である。

(3) 同(2)のうち、<1>被告が二-一路線に施行前の最高路線価を設定したこと、<2>被告が五〇メートル道路を北から南に路上施設(植樹)、歩道、車道の順で設置し、土地評価基準中街路係数Xに街路接面不良マイナス〇・三〇を定め、これを右道路北側宅地に適用したこと、<3>被告が両景橋の高架化に伴う橋の北側の宅地の施行後の評価につき、日照不良による修正係数〇・九を乗ずることにしたことは、認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

なお、<2>について付言する。五〇メートル道路は、道路構造令一二条に違反するものではない。同条所定の第二図は、歩道及び自転車道等の断面を図示し、その上空二・五メートル内が建築限界であることを示しているにすぎず、路上施設の位置についての定めあるいはその位置を図示したものではない。そうして、<2>は、日照不良がある以上、これを考慮することは当然であり、適法である。

4 請求原因4について

(一) その(一)のうち、被告が本件事業において原告茂主張のように坂出市長から埋立免許を得て<1>公有水面を埋め立てたこと、また、被告が<2>公有水面も埋め立てたこと、<1>公有水面が被告において免許を得た時点で原告茂主張のように宅地(被告所有)とみなされること、<2>公有水面も同様に取り扱われるべきものであること、被告が右各埋立地(相当地積)をすべて公共施設用地に取り込む事業計画を定めたことは、認めるが、主張は争う。原告茂が主張するように解すべき理由はない。

(二) 同(二)のうち、被告が本件事業計画において造成する計画を定めた五〇メートル道路が本州四国連絡橋の架設に伴う交通需要に対処するために設置されるものであることは、認めるが、主張は争う。右道路は、本件施行地区全体の多角的発展につながるものであるから、その建設計画は法一条の目的に適合している。

(三) 同(三)のうち、被告が本件事業計画において公共施設管理者たる香川県等に法一一九条の二所定の費用の負担をすることを求める資金計画の定めをしていないことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。原告茂の主張は、法一一九条の二が施行者の作為義務を定めたものであることを前提にしているところ、そうでないことは、その規定自体から明らかであるから、その前提を欠き、失当である。

(四) 同(四)のうち、被告が本件事業計画の資金計画の収入の部において原告茂の主張するような内容の保留地処分金の計上をしていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(五) 同(五)のうち、被告が本件事業計画において埋立費を九億七〇〇〇万円としていることは認めるが、その余の事実は否認する。

なお、右金額は、廃止塩田(周辺道路等から約一ないし四メートル低かった。)の埋立費用及び<1><2>公有水面の埋立費用を合わせたものである。

(六) 同(六)のうち、被告が本件事業計画の資金計画の支出の部に上水道工事費を計上していることは認めるが、主張は争う。上水道工事は、法二条二項に該当するので、その工事費を本件事業が負担しても、適法である。

なお、右工事費のすべてを本件事業が負担しているものではなく、水道事業経営主体たる被告は、幹線上水道工事費を負担している。

(七) 同(七)のうち、本件事業に対して香川県から補助金が交付されること、被告が本件事業計画の資金計画の収入の部に県補助金を計上していないことは、認めるが、主張は争う。

5 請求原因5について

(一)(1) その(一)(1)のうち、<1>公有水面の埋立免許の出願に際し、被告が埋立免許願書の埋立地の用途欄に原告茂の主張するとおりの記載をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。埋立地の用途欄には、本件事業完成時の現実の埋立地の利用状況を記載することになっているところ、現実の利用状況は右記載のとおりであり、なんら違法はない。

(2) 同(一)(2)のうち、<1>公有水面の埋立免許には、公有水面埋立法四条三項一号により右公有水面に権利を有する者の同意を要すること、原告茂名義の同意書の提出がないことは、認めるが、その余の事実は否認する。右公有水面への排水口を設置し、これを利用して排水していたのは、原告会社であって、原告茂ではない。仮に、原告茂であるとしても、原告会社の代表取締役の原告茂は、昭和五二年一〇月五日、右公有水面の埋立に対する原告会社代表取締役宮本一男名義の同意書を自ら報告に提出した。この事実関係からすれば、原告茂も、右公有水面の埋立に同意したとみるのが相当である。

(二) 同(二)は認める。しかし、公有水面埋立法一条三項により、土地区画整理法による溝渠又は溜池の変更のため必要な埋立については、公有水面埋立法は適用しないものとされている。右の溝渠又は溜池の「変更」とは、当該溝渠等の物理的変更だけではなく、機能的に代替する施設に変更することも含む。本件事業では、<2>公有水面の塩廻し等に代替する施設として、道路側溝や下水道施設が設けられることになっているから、<2>公有水面の埋立につき、埋立免許を得る必要はない。

三  被告の主張

1 本件事業は、次のとおり面積も大規模なもので、地権者等利害関係人も多数に及んでいる。

(一) 面積 約七〇万四〇〇〇平方メートル

(二) 地権者数

(1) 仮換地指定時 二三六人(他に、借地権者七人)

(2) 平成元年一月時 四五八人(他に、借地権者七人)

(三) 従前地筆数

(1) 仮換地処分時 六一六筆

(2) 平成元年一月時 九九三筆

2 本件事業はほぼ完成し、仮換地の利用は一〇〇パーセントに近いほど開始され、また、保留地予定地の処分も六四パーセント行われ、これらの土地には、既に多くの建物が建築されている。

3 以上のように、大規模な土地区画整理事業の施行により、土地の利用、権利関係の設定が開始されているのであるから、仮に、本件仮換地指定処分が取り消されることになると、本件事業計画は大幅な修正を余儀なくされ、他の地権者等に多大の影響を及ぼす事態となって、公の利益に著しい障害をもたらすことになる。これに対し、仮に本件仮換地指定処分が違法として、原告茂に損害が生じることになっても、それは、本件仮換地指定処分が取り消されることによって多数の者が被るであろう損害や社会経済的損失に比べれば僅少であり、しかも金銭賠償の方法により十分てん補され得るものである。

4 したがって、仮に本件仮換地指定処分が違法であるとしても、これを取り消すことは公共の福祉に適合しないと認めるのを相当とするから、本件仮換地指定処分の取消請求は、行政事件訴訟法三一条により棄却されるべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張事実のうち、1は不知、その余は否認し、主張は争う。

(第二事件について)

一  請求原因

1 第一事件の請求原因1のとおり

2 被告は、原告会社に対し、<1>昭和五三年三月一一日付けで、本件従前地について別紙(六)「仮に権利の目的となるべき宅地指定通知」のとおりの仮に権利の目的となるべき宅地指定処分(以下「本件仮宅地指定処分」という。)を、<2>平成元年一月一七日付けで、従前建物(2)・(3)について別紙(七)「建築物等移転通知及び照会」のとおりの移転通知及び照会処分(以下「本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分」という。)及び従前建物(1)について別紙(八)「建築物移転通知」のとおりの移転通知処分(以下「本件従前建物(1)移転通知処分」という。)をした。

3 しかしながら、本件仮宅地指定処分は、第一事件の請求原因3ないし5と同一の理由により、取り消されるべきである。

4 本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分は、次のとおり重大かつ明白な瑕疵があるので無効である。

(一) 建築物等移転通知・照会に際して、施行者は、予定している移転方法、移転工法を知らせるべきである。しかるに、被告は、それをしなかった。

(二) 従前建物(1)ないし(3)を本件仮換地に移転するについては、建築基準法の適用を免れないところ、従前建物(2)及び(3)については、同法四八条三項の適用があるので、仮換地への移転が法律上不能である。

(三) 従前建物(1)ないし(3)を本件仮換地に曳家移転することは、事実上不能である。

(四) 現段階で、従前建物(1)ないし(3)を本件仮換地に移転する必要性が全くない。

5 本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分には、先行する本件仮宅地指定処分の前記3の違法性が承継される。

6 本件仮宅地指定処分、本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分により、原告会社は、自然人の精神的苦痛に匹敵する無形の損害を受けた。それを償う金額は、一〇〇〇万円をもって相当とする。

7 よって、原告会社は、<1>本件仮宅地指定処分の取消しを求め、<2>本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分につき、主位的に、無効確認、予備的に、取消しを求め、<3>被告に対し、不法行為による損害賠償として、損害金一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為後である平成元年八月二二日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  本案前答弁の理由

本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分のうち、照会部分は、なんら処分性を有しないから、同部分の無効確認ないし取消しを求める原告会社の訴えは不適法である。けだし、処分の無効確認ないし取消の訴えは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の無効確認ないし取消しを求める訴えであるから、原告会社が無効確認ないし取消しを求める対象が行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為でなければならない。この「処分性」とは、公権力の主体たる国又は公共団体がその行為によって、国民の権利義務を形成し、或いはその範囲を確定する行為である性質を有するものをいうのである。しかして、照会部分は、原告の権利義務になんら消長をきたすものではないことは明白であり、右部分に関する本件訴えは不適法というほかはない。

三  請求原因に対する認否

1 第一事件の請求原因に対する認否1のとおり

2 請求原因2の事実は認める。

3 第一事件の請求原因に対する認否3ないし5のとおり

4 請求原因4について

(一) その(一)の事実は認め、主張は争う。

(二) その(二)の主張は争う。

(三) その(三)の事実は否認する。たとえ曳家移転が不能であっても、改築移転によって移転が可能である。

(四) その(四)の事実は否認する。本件事業はほぼ完了し、近く換地処分を行える状況に至っている。

5 請求原因5の主張は争う。

6 請求原因6の事実は否認する。

四  被告の主張

第一事件の被告の主張のとおり(ただし、「本件仮換地指定処分」とあるのは、「本件仮宅地指定処分、本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分」と読み替える。)

五  被告の主張に対する認否

第一事件の被告の主張に対する認否のとおり

(第三事件について)

一  請求原因

1 第一事件の請求原因1のとおり

2 被告は、原告茂に対し、平成元年一月一七日付けで、従前建物(1)について別紙(九)「建築物等移転通知及び照会」のとおりの移転通知及び照会処分(以下「本件従前建物(1)移転通知・照会処分」という。)をした。

3 しかしながら、本件従前建物(1)移転通知・照会処分は、次のとおり重大かつ明白な瑕疵があるので無効である。

(一) 建築物移転通知・照会に際して、施行者は、予定している移転方法、移転工法を知らせるべきである。しかるに、被告は、それをしなかった。

(二) 従前建物(1)を仮換地に曳家移転することは、事実上不可能である。

(三) 現段階で、従前建物(1)を仮換地に移転する必要性が全くない。

4 本件従前建物(1)移転通知・照会処分には、先行する本件仮換地指定処分の第一事件請求原因3ないし5の違法性が承継される。

5 本件仮換地指定処分及び本件従前建物(1)移転通知・照会処分により、原告茂は、多大の精神的苦痛を被った。その慰謝料としては、一〇〇〇万円が相当である。

6 よって、原告茂は、<1>本件従前建物(1)移転通知・照会処分につき、主位的に、無効確認、予備的に、取消しを求め、<2>被告に対し、不法行為による損害賠償請求として、損害金一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為後である平成元年八月二二日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本案前の答弁

第二事件の本案前の答弁のとおり(ただし、「本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分」とあるのは、「本件従前建物(1)移転通知・照会処分」と読み替える。)

三  請求原因に対する認否

1 第一事件の請求原因1に対する認否1のとおり

2 請求原因2の事実は認める。

3 第一事件の請求原因に対する認否3ないし5のとおり

4 請求原因4について

(一) その(一)の事実は認め、主張は争う。

(二) その(二)の事実は否認する。たとえ曳家移転が不能であっても、改築移転によって移転が可能である。

(三) その(三)の事実は否認する。本件事業はほぼ完了し、近く換地処分を行える状況に至っている。

5 請求原因5の主張は争う。

6 請求原因6の事実は否認する。

四  被告の主張

第一事件の被告の主張のとおり(ただし、「本件仮換地指定処分」とあるのは、「本件従前建物(1)移転通知・照会処分」と読み替える。)

五  被告の主張に対する認否

第一事件の被告の主張に対する認否のとおり

第三  証拠<省略>

理由

第一  第一事件について

一  請求原因1について

1  その(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  その(二)の事実は、原告茂の原告会社に対する従前建物(2)・(3)の敷地等の賃貸時期及び原告会社の同族会社性の点を除いて、当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、右賃貸時期は、昭和四一年であること、原告会社は、父親譲りの個人企業の製材業を原告茂及びその兄の宮本一男が法人成りさせたいわゆる同族会社であることが認められる。

(なお、<証拠>によると、原告会社は、被告に対し、昭和四八年五月一一日、本件従前地(地積合計一六五六・一九平方メートル)につき、借地権の申告をし、その地積を一四〇〇平方メートルとしていることが認められるが、本件全証拠によっても、その部分が明らかでない。)

二  請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  請求原因3について

1  その(一)(縦の照応原則違反)について

換地計画を定めないで換地予定地的仮換地を指定し、その仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定する場合には、法八九条に従い、仮換地及び従前地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように指定し、その仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を右に準じて指定しなければならない(法九八条二項)(照応の原則)。ここに「照応」するというのは、通常人が考えてほぼ同一条件にあると認められることをいうものと解される。

原告茂は、本件仮換地指定処分が利用状況・環境の点で照応原則に違反すると主張するので、この点を検討する。

(一) 本件施行地区は、塩田が約八割を占める地区で、昭和四八年三月の本件事業計画の決定当時、全域が準工業地域に指定されていたこと、右決定に先立って、香川県知事により、本件施行地区のほぼ中央を東西に通じる幅員五〇メートルの幹線道路(すなわち、「五〇メートル道路」といってきたもの)が都市計画として定められ、右道路の南側は、そのうち住居地域に指定(変更)されることが予定されていたこと、本件事業は、塩田の廃止に伴い、無秩序な市街化が予想されたので、それを防止し、右道路その他の公共施設の整備改善を図り、健全な市街地の開発を行うことを目的として計画されたこと、その計画では、五〇メートル道路の北側地区を工業地とし、本件従前地が含まれる南側地区は住宅地とすることにしていたところ、昭和四八年一二月一一日、香川県知事により、前記予定どおり右道路の南側地区を住居地域とする用途地域の指定(変更)がなされたこと、本件仮換地指定処分が南側地区の住居地域に行われたことは、当事者間に争いがない。

(二) 本件従前地の利用状況は、前記一2のとおりである。すなわち、原告茂は、一部を自己の居宅店舗の敷地とし、その余の部分は原告会社(原告茂及びその同族経営)の製材工場用地として利用してきた。

ところで、本件仮換地指定処分により、本件従前地上にある従前建物(1)ないし(3)の移転が避けられないことは、当事者間に争いがないところ、その移転につき、建築基準法の適用を免れないと解されるが、住居地域では、同法四八条三項本文により、同法添付の別表第二(は)、第三(五)の「木材の引割若しくはかんな削り、裁縫機械、撚糸、組ひも、編物、製袋又はやすりの目立」で出力の合計が〇・七五キロワットを超える原動機を使用するもの(原告茂本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨により、従前建物(2)・(3)は、これに当たることが認められる。)は、不適格建築物として原則として建築が許されないものとされている。もっとも、同項ただし書により、公益上やむを得ないものと認められて、建築許可がなされれば、移転が可能となるが、それには、同条九項により、聴聞の手続を経た上、建築審査会の同意を得なければならない。なお、移転ができても、同法三条三項三号により、同法八六条の二の継続的な適用はあり得ないことになるので、増改築についても、同法四八条三項本文により、原則として許されず、同項ただし書許可により、例外的に許されることになる。

(三) さらに、本件仮換地指定処分等により、住居地域で製材工場の経営が継続されると、その騒音・振動に対し、付近住民から苦情が出ることは、容易に推認される。したがって、(二)の点に加えて、この点でも、住居地域での製材工場の経営の継続には困難が伴うことが優に予想されるところである。

(四) 以上の一、二及び三1(一)ないし(三)の事実に基づいて、本件従前地と本件仮換地とはほぼ同一条件にあるといえるかについて検討する。

(1) 前示二の事実によれば、本件仮換地指定処分はほぼ現位置になされ、地積の減歩も極めて少ないので、位置や地積については照応している。しかし、以上の(二)・(三)で検討したところによると、現在の事業の継続が極めて困難になることが予想され、利用状況及び環境の不照応が大きい。これに、前記(一)のとおり、本件事業は、廃止塩田が約八割を占める地域の無秩序な市街化を防止し、その中央に整備する五〇メートル道路の北側地区を工業地とし、南側地区を住宅地として健全な市街地の開発を行うことを計画したものであることを考え併せると、本件仮換地は事業の継続が容易な北側地区の準工業地域に指定するのが相当であるというべきである。

(2) もっとも、五〇メートル道路の北側地区の準工業地域に本件仮換地を指定しようにも、そこにそれだけの土地がないとか、原告茂も原告会社も住居地域での仮換地の指定を希望し、工場用地は別途確保することにしたとかいうような特段の事情があれば、本件のような仮換地指定も不相当ということはできないので、右の特段の事情の有無を検討する。

<証拠>を総合すると、昭和五三年三月に本件仮換地指定処分を含む合計四〇万六〇三六・四三平方メートルの仮換地指定がなされた際、合計七万二六二〇・一二平方メートルの保留地(正確にいえば、保留地予定地)の決定がなされ、その所在地は別紙(一〇)保留地位置図のとおりであったことが認められる。この事実によれば、被告において、準工業地域に本件仮換地を指定することは十分可能であったと認めるのが相当である。これを覆して、準工業地域に本件仮換地を指定するだけの土地がなかったことを認むべき証拠はない。

ところで、被告は、本件仮換地指定処分については、被告の建設経済部長引田伝と原告茂との間で十分協議を経た上でなされたものであり、あらかじめ原告茂はこれを了承していたと主張し、証人織田勉は、右主張に添う供述をするけれども、この供述は、<証拠>に照らし、たやすく措信することができず、他に被告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、右の証拠を総合すると、本件従前地のある、五〇メートル道路の南側地区が準工業地域から住居地域に指定(変更)される予定であることを昭和四七年に知った原告茂は、準工業地域の北側地区に本件従前地の仮換地ないし換地を望むことを、昭和四八年には被告の担当者に申し出ていたことが認められる。そのほか、本件仮換地指定処分の根拠の一つとして、証人東条利行、同古見繁勝(第一回)及び同中条巌は、いずれも、本件仮換地を準工業地域に指定すると、一・八倍くらいの増歩になるから、不都合であるように供述する。しかし、たとえ増歩になっても、土地評価が適正に行われる限り、この点は、仮換地指定処分の違法事由とはならないから、右各供述は、とうてい採用することができない。

(3) なお、被告は、事業計画決定後、施行地区の一部につき、用途地域の指定(変更)がなされた場合、仮換地の指定に当たってなされるべき従前地との照応の考慮は、仮換地指定時における状況を基準とすれば足りるから、本件仮換地を住居地域に指定しても、照応の原則に反しない旨主張する。確かに、用途地域の指定(変更)が土地区画整理事業と全く無関係に他の事情によってなされた場合には、被告の主張のように解するのが相当であるが、本件事業においては、その事業開始時前示(一)のように用途地域の指定(変更)が予定され、その予定どおりに用途地域の指定(変更)がなされたものであり、このような場合には、仮換地の指定に当たってなされるべき従前地との照応は、土地区画整理事業開始の時における状況を基準とすべきであると解される。

2  そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件仮換地指定処分は、縦の照応原則に反し、違法であるといわなければならない。

四  そこで、被告の主張(請求棄却の判決をすべき特別の事情)について判断する。

1  <証拠>に弁論の全趣旨を総合すると、本件事業は、被告の主張1のとおり、面積も大規模なもので、地権者等利害関係人も多数に及んでいること、本件事業はほぼ完成し、仮換地の利用は一〇〇パーセントに近いほど開始され、また、保留地予定地の処分も大部分行われ、これらの土地には、既に多くの建物が建築されていること、現段階で準工業地域の保留地予定地の中に、本件従前地の仮換地として指定できるだけの保留地予定地は残っていないことが認められる。

2  以上の事実によれば、もし本件仮換地指定処分が取り消されることになると、本件事業計画は大幅な修正を余儀なくされ、他の地権者等に多大の影響を及ぼす事態になることが優に推認されるから、本件仮換地指定処分を取り消すことは、公の利益に著しい障害を生ずるものというべきである。これに対し、本件仮換地指定処分が取り消されないことによって原告茂の受ける損害は、本件仮換地指定処分が取り消されることによって多数の者が被るであろう損害や社会経済的損失に比べれば僅少であり、すべて金銭賠償の方法で十分てん補可能であると考えられる。

3  そうすると、本件仮換地指定処分の取消請求は、これを取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められるので、行政事件訴訟法三一条一項に則り、これを棄却することにする。

第二  第二事件について

一  請求原因1に対する判断は、前記第一の一説示のとおり

二  請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

ここで、被告の本案前の答弁について判断する。

被告は、本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分のうち、照会部分は、なんら処分性を有しないから、同部分の無効確認ないし取消しを求める原告会社の訴えは不適法であると主張するけれども、法七七条の法文上、同条二項所定の建築物等の移転通知及び照会が、一体として同条一項による施行者の建築物等の移転及び除却の直接施行の前提要件となっているものと解されるから、右照会を通知から切り離して、その部分のみの却下を求める被告の右主張は採用できない。

三  請求原因3について

本件仮宅地指定処分は、前記第一の三説示と同一の理由により、照応の原則に違反し、違法であるというべきである。

四  請求原因4について

1  その(一)の主張について判断する。本件建築物移転通知・照会に際して、被告が原告会社に対し、予定している移転方法、移転工法を知らせなかったことは、当事者間に争いがない。しかし、法七七条の規定上、建築物等の移転・除却の通知・照会をする場合、予定している移転方法、移転工法を知らせる必要があるものとされていないから、右の主張は採用できない。

2  同(二)の主張について判断する。従前建物(1)ないし(3)を本件仮換地に移転するには、建築基準法の適用を免れないところ、従前建物(2)及び(3)については、同法四八条三項の適用があることは、前記第一の三1(二)説示のとおりである。ただし、同所説示のとおり、同項ただし書による例外許可を得れば、仮換地への移転が法律上可能となるから、右の主張は採用できない。

3  同(三)の主張について判断する。

<証拠>を総合すると、従前建物(1)ないし(3)を本件仮換地に曳家移転することは、困難ではあるが、可能であることが認められる。この認定を覆して、右曳家移転が事実上不能であることを認めるに足りる証拠はない。したがって、右の主張は採用できない。

4  同(四)の主張について判断する。前記第一の四1説示のとおり、本件事業の完成が迫ってきており、この事実によれば、従前建物(1)ないし(3)を本件仮換地に移転する必要があることが明らかである。この認定判断をひるがえして、右の必要性が全くないことを認むべき証拠はない。したがって、右の主張は採用できない。

5  以上によれば、本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分について重大かつ明白な瑕疵があると認めることはできないから、その無効確認請求は理由がない。

五  請求原因5について

法七七条の建築物等の移転・除却は、法九八条の仮換地等の指定の目的を現実的に完成させるものであり、両者は相結合して一つの効果を完成する一連の行為であると考えられるので、本件仮宅地指定処分の違法は本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転処分に承継され、後者の取消事由として前者の違法を主張することができると解されるところ、本件仮宅地指定処分が違法であることは、前記三説示のとおりである。

六  請求原因6(無形損害の賠償請求)について

原告会社は、本件仮宅地指定処分、本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分によって受けるいっさいの財産的損害の賠償を被告に求めることが可能と考えられるから、特段の事情のない限り、無形の損害の賠償請求まで認容することはできない。しかるに、特段の事情を認むべき証拠はない。

したがって、右の無形損害の賠償請求は理由がない。

七  被告の主張(請求棄却の判決をすべき特別の事情)について

前記第一の四説示と同一の理由により、本件仮宅地指定処分・本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分の取消請求も、行政事件訴訟法三一条一項を適用して、棄却することにする。

第三  第三事件について

一  請求原因1に対する判断は、前記第一の一説示のとおり

二  請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

ここで、被告の本案前の答弁について判断するに、前記第二の二説示と同一の理由により、本案前の答弁は採用できない。

三  請求原因3について

1  その(一)の主張について判断するに、前記第二の四1説示と同一の理由により、右主張は採用できない。

2  その(二)の主張について判断するに、前記第二の四3説示と同一の理由により、右主張は採用できない。

3  その(三)の主張について判断するに、前記第二の四4説示と同一の理由により、右主張は採用できない。

4  以上によれば、本件従前建物(1)移転通知・照会処分の無効確認請求は理由がない。

四  請求原因4に対する判断は、前記第二の五説示のとおり(ただし、「本件仮宅地指定処分」は「本件仮換地指定処分」と、「本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転処分」は、「本件従前建物(1)移転通知・照会処分」と読み替える。)

五  請求原因5(慰謝料請求)について

原告茂は、本件仮換地指定処分及び本件従前建物(1)移転通知・照会処分によって受けるいっさいの財産的損害の賠償を被告に求めることが可能と考えられるところ、そのうえ慰謝料請求まで容認すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の慰謝料請求は理由がない。

六  被告の主張(請求棄却の判決をすべき特別の事情)について

前記第一の四説示と同一の理由により、本件従前建物(1)移転通知・照会処分の取消請求も、行政事件訴訟法三一条一項を適用して、棄却することにする。

第四  結論

以上のとおりであるから、<1>第一事件原告の請求を棄却し、本件仮換地指定処分が違法であることを宣言し、<2>第二事件の原告の請求をいずれも棄却し、本件仮宅地指定処分、本件従前建物(2)・(3)移転通知・照会処分及び本件従前建物(1)移転通知処分が違法であることを宣言し、<3>第三事件原告の請求をいずれも棄却し、本件従前建物(1)移転通知・照会処分が違法であることを宣言し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邊 貢 裁判官 石井忠雄 裁判官 青木 亮)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例